軽貨物で「社員ドライバー」はアリか——月60万売っても手取り25万の現実と、それでも雇う理由
「社員にしたら安定するんじゃないか」
配送会社を数年やっていると、一度はこの発想が頭をよぎる。業務委託ドライバーの突然の離脱、保険料の立て替え、欠車時の穴埋め。「もう雇ってしまった方が楽じゃないか」という気持ちはよくわかる。
ただ、結論から言う。収益を狙って社員ドライバーを雇う選択肢は、ほぼ機能しない。
数字で確認する。
月60万の売上で、手取りは25万が限界
社員ドライバーが月にどれだけ稼いでくれるか。宅配や定期配送なら、フル稼働で月60〜70万円の売上が一つの目安になる。
ではそこから何が引かれるか。
| 費用項目 | 目安 |
|---|---|
| 車両費(リースまたは減価償却) | 3〜5万円 |
| 車両保険(任意保険) | 2〜3万円 |
| ガソリン・高速 | 5〜7万円 |
| 社会保険(会社負担分) | 4〜5万円 |
| 雇用保険・労災 | 約1万円 |
| 本人給与(支給額) | 25〜28万円 |
| 合計(会社側支出) | 約40〜50万円 |
表面上は10〜20万円の利益が出るように見える。ただし、これはドライバーが毎日フル稼働した場合の数字だ。
欠勤・体調不良が1週間続けば売上は一気に15万円落ちる。修理・タイヤ交換などの車両メンテナンス費も月に数千円〜数万円発生する。さらに雇用になった瞬間に有休消化・欠勤保障・残業代が義務として乗ってくる。帳簿上の利益と手元に残るキャッシュは別物だ。
宅配の「12時間構成」という壁
宅配の現場は構造上、1日12時間前後で組み立てられているケースが多い。委託なら「稼いだ分だけ受け取る」形が成立するが、雇用になると労働基準法の縛りが入る。
残業代・深夜割増・休日割増。これらを適切に処理しようとすると、売上とコストが逆転するタイミングが必ず来る。
委託ドライバーとの混在運用で「社員だけ雇用管理を丁寧にする」という運用も、現場では相当な負荷がかかる。管理者が2系統の勤怠・給与処理を並行して回すことになるからだ。
管理面の現実:業務委託ドライバーが20名を超えてから、ようやく「検討する」段階
社員ドライバーを雇うと、対応しなければならない業務が一気に増える。
- 採用コスト(求人費・面接・入社手続き)
- 欠車時の緊急対応(委託なら「来ない人の代わりを探す」だが、社員なら会社都合で動かす義務がある)
- 勤怠管理・36協定(シフト管理が法的に縛られる)
- 業務委託ドライバーとの関係調整(待遇差・情報格差)
これらを並行して回せる体力が会社に生まれるのは、業務委託ドライバーが20名を超えたあたりが一つの目安だ。
数字で確認すると、1人あたりの平均売上が35万円、会社の手数料が10%だとすると1人あたりの利益は3.5万円。20名で月70万円、28〜29名でようやく月100万円に乗ってくる。この70〜100万円の利益が安定して出始めたタイミングが、社員登用を検討し始めるラインだ。
それ以下で雇用に踏み込むと、管理者自身が現場と内部業務の両方に引っ張られて消耗する。
それでも「雇う」を選ぶ理由
ここまで読んで「じゃあ収益目的なら委託のままでいいじゃないか」という結論になる。それは正しい。
現場を回すだけなら、委託ドライバーの中から信頼できる人間を現場リーダーに据えて、管理業務も委託すればいい。 月5〜10万円の利益を乗せて任せてしまえば、雇用のリスクを一切負わずに組織を機能させることができる。
では何のために雇うのか。答えは一つで、社長の右腕を作るためだ。
現場管理・採用・営業まで任せられる人間が社内に1人いるだけで、社長が使える時間の質がまったく変わる。日々の運営を任せられれば、社長は会社の将来に向けた投資や案件開拓に集中できるようになる。
若い社員が現場から入って、採用の感覚・キャッシュフローの見方・案件交渉の勘どころを身につけながら経営に近いポジションまで上がっていく。中小企業でこれができる会社は少ない。社員登用の本当の意味は、収益の最大化ではなく、社長が会社の外を向けるようにすることだ。
判断の基準はシンプル
まとめると、社員登用の判断軸は二択だ。
「現場を回したいだけなら、委託リーダー制で十分。社長が会社の外を向きたいなら、右腕を雇う。」
収益を最大化したいなら委託のままでいい。信頼できるドライバーに管理業務を任せ、利益を乗せて動かせばコストは最小限で済む。
一方、社長が採用・営業・投資に集中したいなら話が変わる。現場・採用・営業をまとめて任せられる社員が1人いるだけで、会社の動き方が根本から変わる。
「社員にしたら安定する」は間違いだ。正確には、右腕が育ったときに初めて社長が本当の意味で会社を動かせるようになる。それが社員登用の本質だ。